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贈ることば―藤川修士さんへ

増岡 弘
★藤川修士……オクターヴ・ヴアンクヴェール 雪の深い東北の小学校一年生の詩に、こんなのがありました。題は『つくし』です。

 つくしが 一本でた
 あたたかいので
 「ボク、デル」といって
 でたのかな?

 つくしが春を感じ、意志を持って出た様子が実にいい。とても素直な気持ちが、つくしを通じて春が語られています。この詩をさるスナックのママに紹介したら、しばらく考えて、何を思ったのか「……まあ! エッチ!!」……む!? 世の中いろいろであります。東北の小学生よ、許せ。都会の人は季節感を失いつつあるのです。
 一年中野菜が出来るビニールハウスでは、寒い冬でも石油で暖房され、温度で季節を間違えた形で野菜が何の苦労もなく育ちます。
 今、信じられない位数多くの劇団があり、数多くの俳優が舞台に立っています。さらに不思議なのは、どの劇国の公演もそれなりにお客様が入っています。観るのに苦痛を要する研究生のような公演にも、笑いたくて仕方のない好意的な客がつめかけ、それなりに活気があります。これらを見ていると、都会というビニールハウスぞ季節を感ぜず育つ野菜とイメージが重なってしまうのです。大劇団の自主公演の方がむしろ客がまばらで、演劇の本当の冬を感じます。
 藤川修士さんという俳優は、野武士のような風貌ながら、春を待つ北国の小学生のような素直な心を持っています。雪の下でじっと春を待ち、ねぱり強く土の中で耐えてこそ、本当の野菜の味がするのだと思う。藤川さんにはそんな感じがしてなりません。彼にとって舞台は春であり、それだけに期待の持てる俳優さんだと思います。
 私の劇団「東京ルネッサンス」で、昨年十二月『ああ隅田川』という三遊亭円朝の人情噺を脚色した舞台に、藤川さんの客演をお願いしました。長兵衛という人間味漏れる左官の職人役を、彼はまるで自分の人生を演じるように、すべてを塗りこめて舞台に立ち、終幕では静かな涙がいく筋もその頬に伝わっていました。
 山頭火のことばを借りれぱ「すべては自分から始まり、自分に終わる」−−役者もまた同じかも知れない。
 知らない自分との出逢い旅なのでしょうか。舞台で自分をさらけ出し、決して満ち足りることなく果てるものかも知れません。
 人は遠近法の中で生きています。近くにあるものは大きく見え、遠くに行く程小さく見える。だが小さく見えるだけで決して小さくはない。そしてそれは目に見えるものだけに限らず、見えないものも実は遠近法がちゃんと支配している。俳優の演技も同じかも知れません。今までどう生きて来たかより、現在どう生きていくかがいちぱん大きく演技に現れ、これからどう生きるかは、今は問題ではないのです。藤川さんは今、日本古来の「気」を体得せんと努力しています。何かにつけて稽古熱心で、私はそこに期待を寄せています。今度の舞台は楽しい喜劇だと聞きました。東北の小学生ふうに言うならぱ……
 ふじかわさんが ぶたいにでる
 たのしそうなので
 「ぼく、出る」
 といってでたのかな?
(ますおかひろし=声優・東京ルネッサンス主宰)

「親ごころ」パンフレットより転載 (C)こん平党
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